「ミニマリスト」であることを知った男はシェアをする-Anycaオーナー関山の価値観-
クルマは、人生における最も高額な買い物のひとつであり、だからこそ憧れにもなり得る。Anycaは、そんな大切なクルマをシェアするオーナー達が支えている。では、彼らは何を思って、Anycaで愛車をシェアするのだろうか。
関山は金融機関に勤める36歳である。都内屈指の高級住宅街に居を構え、週末には愛車のアルファ・ロメオ4Cスパイダーを駆って箱根や葉山に向かう。こう書くと彼の生活は典型的なアッパークラスのそれだが、彼の部屋は豪奢な富裕層の暮らしとは対極にある。
2LDKを1LDKへと改装したリビングルームには生活を感じさせるものが何もない。
いや、正確に言えば、Bowers & Wilkinsのオーディオセットや、デザイナーズチェア、それにベッドがある。
1つあるベッドルームはもはや物置と化した。「ミニマリスト」という言葉を友人の口から聞いたとき、自分がそういったグループにカテゴライズされる人間であることを自覚した。ただ、あくまで、彼は自身の価値観を大切にしてきただけだ。
彼を彼たらしめてきたものは決してひとつではないが、合理的であることは常に重視してきた。こんなエピソードがある。「シェアハウス」という言葉がまだそれほど一般化していない頃、彼は恵比寿のシェアハウスへと引っ越した。金銭的メリットを享受したかったわけではない。むしろ、それよりも安い賃貸はいくらでもあった。ただ、彼は「例えば、トイレを24時間独占したいか?」と自問した時、どうしてもイエスという回答にはならなかっただけである。つまり、1日に数回、時間にしてせいぜい10分程度のためのスペースの費用が賃料に含まれていることに納得できなかったのだ。
合理性を追求する彼が、大学院へと進学し経済学を専攻するようになると、世の中を突き動かす経済の原理原則に関心を持った。1日数回しか使わないトイレを各世帯が保有するよりも、一定規模のコミュニティでシェアするほうが経済合理性がある。
それは個人の価値観レベルの話ではなく、日本、ひいては世界経済全体に好影響を与える可能性があるのではないだろうか。そう、考えるようになった。彼自身は吝嗇家、すなわちケチというわけではない。趣味はお金を使うこと、と自任するように、自身が納得いくものに対する投資は惜しまない。その姿勢は社会人になったばかりの頃から変わっていない。
例えば、23歳の頃、はじめて購入したのはBMWのM3だった。学生時代に読んだ「頭文字D」や「湾岸ミッドナイト」がきっかけとなり、車は好きだった。中古とはいえ、決して安い買い物ではなかった。けれど、その世界最高水準のパフォーマンス、その速さから得られる価値は、支払った金銭の対価としては十分すぎるものだった。当時の自分には手に負えないくらい、M3は速すぎて、壁にぶつけてしまってからはもう戻ってくることはなかったけれど。
その後、インターネットのオークションで手に入れたメルセデス・ベンツSLも本当に楽しかった。これも、まだそれほどそういう取引が一般化していない頃の話である。もちろん不安もあったが、それよりも、個人間売買という仕組みへの関心が勝った。R129の前期型だから電子系の故障が多く、皇居の前で停止した時はさすがに肝を冷やした。手間も世話もかかったが、それが楽しかった。
自動車と向き合うことを教えてくれたという意味で、忘れることのできない1台だと思っている。それからしばらくはクルマのない生活を送っていたが、ある時知人から古いメルセデス・ベンツのワゴンを買わないかと持ちかけられた。シェアハウスの友人4人で費用を出し合って購入し、共同利用することにした。プライベートカーシェアである。週末や連休など、それぞれの予定が重複することが懸念されたが、それも杞憂に終わり、この仕組みはうまく回った。彼はそれが快感だった。
そうなると、当然、次はすべての人にオープンなカーシェアを検討した。仕組み自体は仲間同士で検証済みだったから、うまくいくと思った。けれど、その計画はすぐに頓挫した。保険や法律など乗り越えるべき壁が、あまりにも多すぎたのだった。
だから、Anycaというサービスを知り、当時の愛車、ポルシェケイマンをすぐにオーナー登録をした。現在では、アルファ・ロメオ4Cへとクルマを替え、Anycaでも順調にシェア数を伸ばしている。
関山は言う。「コスト削減のためのカーシェアリングではない。その合理性に惹かれただけだ」と。
実際に、彼はAnycaでシェアされる際に自動付帯される保険とは別に、運転者不問の任意保険を独自に掛けたり、洗車を欠かさなかったりと、シェアリングのためのコストは少なくない。そもそも、カーシェア料金もリーズナブルなものに設定している。
そうまでして彼がシェアするのは、来るべきシェアリング・エコノミーの世界を見据えているからだ。モノやコトの価値は人によって、時によって、異なる。所有の概念を超え、必要なものが必要な時に必要な人のもとに届けられる合理的な世界が来ることを、彼は信じている。
<<ライター紹介>>
瓜生洋明|デジタル・メディア・プロデューサー大学院で言語学を専攻後、自動車系デジタル・メディア、大手IT企業、外資系出版社などでメディア・プロデューサーを務めた後、フリーランスに転向。キャリアのほとんどがクルマに関係しているように、自身も相当のエンスージアストであり、愛車は1996年式のベントレー・コンチネンタルR。外装色の「ピーコック・ブルー」はそのまま自身の屋号となっている。