「愛車がシェア中に事故に遭った。でも僕はシェアをやめない」真っ赤なBMWZ4をAnyca(エニカ)でシェアし、トラブルを乗り越えたオーナー
個人間カーシェア「Anyca」を利用するユーザーのリアルな声を聞くことで、未来のAnycaユーザーに有益な情報をお届けするコーナー「クルマ好き記者鈴木GO太郎の、賢者のカーシェア術」。
今回登場していただくのは、現在Anycaで24時間12000円で2009年式BMW・Z4をシェアするオーナーの田中氏(40代・東京都在住・Anyca歴3か月)。
現在、田中氏には週1度のペースでシェアリクエストが入り、8月の夏休みシーズンは長期のリクエストも多く、シェア数のランキング入りも果たした。
Anycaの醍醐味の一つとして、Z4のような高級輸入車のオープンカーを気軽にカーシェアできるという点が挙げられるが、オーナーにとっては、その分同車種のライバルが多いことも確かだ。
その中でも高い人気を獲得するコツはどこにあるのか。シェアされやすいクルマの選び方から、プロフィール文の作り方まで、田中氏に詳しく聞いてみた。
■「実はZ4を2台持ってるんです」
「買ったきっかけは一目惚れです。Z4はAnycaでも多く見かけますが、赤いボディに赤いシートのクルマって、まず見当たらないんですよね。今年春、千葉のディーラーで出会って即断即決しました」
田中氏のZ4は、2009年式にもかかわらず、走行距離はわずか5000km。前のオーナーが屋根付き車庫に入れて保管していたこともあり、状態はとてもよかったという。
「Z4はAnyca向きのクルマなんじゃないかなと思います。車重が軽いので加速がよいだけでなく、どこから見てもとにかくかっこいい(笑) 僕はSNSをやってないんですけど、Anycaでシェアした若いドライバーさんから『インスタあげていいですか?』と聞かれることも少なくありません。そういう視点でも、非日常を体験したい人からのニーズが高いんです。
シェアするのは大学生のカップルが多いですね。若者だから不安に思うかもしれませんが、Z4をシェアする若者ってみんな育ちがいい雰囲気の人。そういう人を引きつけるクルマなのかもしれません」
そんな田中氏、愛車のシェアを開始したのは驚くべき理由からだった。
「実は、Z4を2台持ってるんです。好きすぎて、もう1台欲しくなって白いZ4を今年5月に買っちゃいました(笑) 自分の人生をふと振り返った時に『あのクルマに乗りたかったな…』と後悔するのはイヤだと思ったんで。AnycaにZ4は何台も出ていますが、赤でかつ35iのほうはなかったので、赤をシェアに出したんです」
つまり、Z4に乗り続けるために、Z4をシェアしたという田中氏。
そんな驚きの理由でシェアした彼だが、実は先月、シェアを開始してからドライバーによってZ4が事故に遭ってしまうというトラブルに見舞われた。
それでも、「今のところシェアをやめる気はない」という彼。その深い理由はインタビュー後半で明らかになるが、まずは彼にシェアされやすいクルマのコツを聞いてみた。
■シェアされやすくするための戦略。まずは……
「Anycaを始めたとき、ランキング上位のクルマのプロフィール文をざっと読んで研究してみたんです。みんなかなり工夫してましたね。まずZ4のカタログを見直して、何をアピールしようか徹底的に考えました」
田中氏が最初に目をつけたのは、クルマのスペックではなく一日の走行距離制限だった。
一般に、Anycaでシェアされているクルマの最大走行距離制限は200km。だが、彼のZ4の1日の走行距離制限は500km。設定した数値はかなり長い。
なぜ?
「きっかけは、Anycaのオーナー向けのイベントでした。そこでドライバーさんと話したら、距離制限が短いと行き先の選定に困ると言われたんです。たとえば200kmが上限だと、千葉の内房とか箱根しか行けない。もし自分がドライバーの立場だとして、『あと50kmしか走れない!』と思ってクルマに乗るのってイヤだなと思いまして」
すでに距離制限への配慮については、過去にも紹介しているが(シェア数を増やすコツは"地理的想像力"。2006年式エスティマをシェアする人気オーナーインタビュー)、田中氏も同様の考えを持っていた。
他にも、返却場所の地図を用意する、オーナーアピールの投稿時間はスマホを開く人が多い昼休み前や他のオーナーの投稿が少ない深夜にするなど、露出時間を増やす工夫をしている。
「小売業をしていることもあり、消費者の時間感覚を考えて作戦を打つのが好きなんですよ」
■他のZ4より割高。でもリクエストが入る理由
さらに今年の夏休み、田中氏が目をつけたのは2日目以降の料金だった。2日目以降は5000円引きに設定、2日間乗った場合19000円になる計算だ。
「1日12000円でシェアすると、2日間だと24000円。それって自分がドライバーの立場だったとして、現実的に使わないよなと思ったんです。最初は2日目以降500円引きに設定していたのですが、5000円引きに変更したら一泊二日のリクエストが増えました」
結果、田中氏のZ4には長期利用のリクエストが増えた。ドライバーにお得感を与え、リクエストが入るきっかけになったようだ。
ただ、一つ気になる点がある。Z4はAnycaの中でも登録台数が多いクルマ(2017年10月11日現在32台)。そして、田中氏のZ4は他の同車種に比べて3000円ほど割高になっている。
それでもリクエストが入るのはなぜだろうか。
「まず、僕は12000円のシェア料金を下げたくないんですよ。愛車の価値を自分から下げることはしたくない。それに、よそ見をしても仕方ないと思っています。それよりもこのクルマに(12000円の)価値を感じている人に乗って欲しいし、そういう人と出会いたいんです」
田中氏がこのような考えに至ったのは、Anycaを始めてから何人かのドライバーと会ったことがきっかけだった。
「これまでずっと小売業界にいたこともあり、外で人と会う機会が少なかったんです。それがAnycaを始めてから、これまでまったく知り合わなかったような人と知り合うことができた。富士スピードウェイで走っている大学生や、サプライズで奥さんと東京観光したいと言ってリクエストしてきた男性。
どの人もAnycaというきっかけがなければ出会えませんでした。だからAnycaって、一種のマッチングアプリだと思ったんです。Anycaを利用することで僕は、この赤いZ4を12000円で乗りたいという人と出会うことができました。それが結果的にターゲットを絞ったことになり、他のZ4ではなくこのZ4に乗りたい!という人からの長期利用リクエストにつながっているのではないでしょうか」
■事故に遭ってもシェアをやめないワケ
そんな田中氏のZ4、先日シェアした際に事故に遭ってしまったという。だが、シェアをやめるつもりはないという。
「9月頭にガリ傷をつけられちゃいました。ドライバーさんは礼儀正しく謝ってくれて、いまはAnycaの担当さんと連絡を取り合って補修している最中です。ただ、それを理由にシェアをやめる気にはならなかったです。それも僕のAnycaの捉え方によるものが大きい。
これまで、Z4以外にSUVを3台乗り継いできました。そのSUVが道具だったとすれば、AnycaでシェアしたZ4は自分を誰かとつないでくれる存在。僕はこれからもZ4に乗りたい人と出会いたいので、シェアを続けるつもりです」
■どんなクルマをシェアすべきか?
最後に、田中氏に今後Anycaでオーナーになる場合、どんなクルマをシェアすべきか聞いてみた。
「中途半端なクルマより、極端なクルマを選んだほうがリクエストが入りやすいと思います。たとえば、愛知にBMWのM4を24時間35000円で貸している人がいます。その人は僕がシェアを始めるときにかなり参考になりましたね。
けっこうなシェア料金設定ですが、もう14回もシェアされてるんです。単純計算で、それだけで49万円の収入。なので、高いクルマを高い料金でシェアするのもありなんじゃないかと思ったんです。安ければいいというわけじゃない。
同じ理由で、古いクルマは、実はシェア料金を高く設定できることにも気づきました。たとえば、Anycaに登録されている1980年代のクルマの中には10000円をこえるクルマも何台かあります。購入費は決して高くないケースでも、その希少性からシェア料金を高く設定してもリクエストが一定数入ってるんですよ」
田中氏によると、2000年代前半の古いクルマを安くシェアするより、極端に古いクルマをシェアに出したほうが好反応になる確率は高いだろうという。
「古いクルマに関しては、まずディーラーに年間維持費を聞いてみて、そこから計算してシェア金額を設定すればよいのではないでしょうか。改造のベースになる古いクルマならば個人売買のニーズも高い。それに古いクルマはターゲットが明確。そのほうが、長期リクエストも見込め、結果的にコスト回収も早くなるはずです」
たしかにライバル車が多いと、シェア料金の終わりなき価格競争に陥るケースも少なくない。一方、自分のクルマをシェアしたい人にだけにシェアするターゲットを絞った戦略は、そうした競争を避けることができる。
競争に勝つのではなく、競争を避ける。
田中氏のハートフルな経験に基づく言葉は、意外にも経営学の基本的な理論を思い出させるものだった。
※なお、こちらのクルマは、2017年10月16日現在は修理中で11月頭には復帰予定です。しばらくお待ち下さい。
<取材・文/鈴木GO太郎>
鈴木GO太郎…ライター・編集者。出版社勤務を経て、2015年フリーに。現在はビジネス誌やネットニュースの編集を行う。専門分野は、自動車、不動産、地理。特に自動車についてはAnycaのような「新しいカービジネス」が専門分野